曾谷入道殿御返事
執筆年:文永十二
曽谷入道殿御返事(曽谷第三書)
文永十二年三月。五十四歳作。
外一二ノ七。遺一七ノ四二。縮一一二六。類八二六。 方便品の長行書進せ候。先に進じ候し自我偈に相副て読たまふべし。此経の文字は皆悉く生身妙覚の御仏也。然れども我は肉眼なれば文字と見る也。例せば餓鬼は恒河を火と見る、人は水と見る、天人は甘露と見る。水は一なれども果報に随て別別也。此経の文字盲眼の者は之を見ず。肉眼の者は文字と見る、二乗は虚空と見る、菩薩は無量の法門と見る。仏は一一の文字を金色の釈尊と御覧有べき也。即持仏身とは是也。されども僻見の行者は加様に目出度渡らせ給ふを破し奉る也。唯相構て相構て異念なく人心に霊山浄土を期せらるべし。心の師とはなるとも心を師とせざれとは、六波羅蜜経の文ぞかし。委細は見参の時を期し候。恐恐謹言。
文永十二年三月 日 日蓮花押
曽谷入道殿
(微上ノ三一。考四ノ三七。)