松野殿御消息

執筆年:建治二
真筆あり
松野殿御消息(松野第三書)      建治二年。五十五歳作。      外九ノ五。遺二二ノ二三。縮一五三五。類一〇二八。 昔乃往、過去の古へ、珊提嵐国と申国あり。彼国に大王あり。無諍念王と申き。彼王に千の王子あり。又彼王の第一の大臣を宝海梵志と申す。彼梵志に子あり、法蔵と申す。彼無諍念王の千の太子は穢土を捨てゝ浄土を取り給ふ。其故は此娑婆世界は何なる所と申せば、十方の国土に、父母を殺し正法を誹謗し聖人を殺せる者、彼の国国より此の娑婆世界へ追入られて候。例せば此の日本国の人大科有る者の獄に入れらるゝが如し。我力に叶はざれば哀愍せずして捨給ふ。宝海梵志一人請取て娑婆世界の人の師と成給ふ。宝海梵志の願に云「我れ未来世の穢悪土の中に於て当に作仏する事を得べし。即ち十方浄土より擯出せる衆生を集めて我れ当に之を度すべし」と誓ひ給き。無諍念王と申は阿弥陀仏成也。其千の太子は今の観音、勢至、普賢、文殊等也。其宝海梵志と申は今の釈迦如来也。此娑婆世界の一切衆生は十方の諸仏に抜捨られしを、釈迦一人許して扶けさせ給を唯我一人と申す也。 松野殿                    日蓮花押 (微上ノ二三。考四ノ一。)