松野殿女房御返事

執筆年:弘安三
松野殿女房御返事(第四書)      弘安三年九月。五十九歳作。      外一三ノ七。遺二九ノ一。縮一九七九。類一〇四二。 白米一斗、芋一駄、梨子一篭、名荷、はじかみ、枝大豆、えびね(山葵)、旁の物給候ぬ。濁れる水には月住まず、枯たる木には鳥なし。心なき女人の身には仏住み給はず。法華経を持つ女人は澄める水の如し、釈迦仏の月宿らせ給ふ。譬へば女人の懐み始めたるには吾身には覚えねども、月漸く重なり日も屡過れば、初にはさかと疑ひ後には一定と思ふ。心ある女人はをのこご(男子)、をんな(女)をも知る也。法華経の法門も亦かくの如し。南無妙法蓮華経と心に信じぬれば、心を宿として釈迦仏懐まれ給ふ。始めはしらねども漸く月重なれば心の仏夢に見え、悦こばしき心漸く出来し候べし。法門多しといへども止め候。法華経は初は信ずる様なれども後遂る事かたし。譬へば水の風にうごき、花の色の露に移るが如し。何として今までは持たせ給ふぞ。是偏へに前生の功力の上、釈迦仏の護り給ふ歟。たのもしし、たのもしし。委くは甲斐殿申すべし。   九月一日                       日蓮花押    松野殿女房御返事 (考四ノ四八。)