富木殿御書

執筆年:建治三年
真筆あり
或建治元年 妙法蓮華経第二に云く_若人不信 毀謗此経 ~ 見有読誦 書持経者 軽賎憎嫉 而懐結恨 ~ 其人命終 入阿鼻獄 乃至 如是展転 至無数劫〔若し人信ぜずして 此の経を毀謗せば ~ 経を読誦し書持すること あらん者を見て 軽賎憎嫉して 結恨を懐かん ~ 其の人命終して 阿鼻獄に入らん 乃至 是の如く展転して 無数劫に至らん〕。第七に云く_千劫於阿鼻地獄〔千劫阿鼻地獄に於て〕。第三に云く 三千塵点。第六に云く 五百塵点劫等云云。涅槃経に云く_為悪象殺不至三趣。為悪友殺必至三趣〔悪象の為に殺されては三趣に至らず。悪友の為に殺されては必ず三趣に至る〕等云云。 賢慧菩薩の法性論に云く ̄愚不信正法 邪見及・慢 過去謗法障。執著不了義 著供養恭敬 唯見於邪法 遠離善知識 親近謗法者 楽著小乗法 如是等衆生 不信於大乗 故謗諸仏法。智者不応畏 怨家邪火毒 因陀羅霹靂 刀杖諸悪獣 虎狼師子等。彼但能断命 不能令人入 可畏阿鼻獄。応畏謗深法 及謗法知識。決定令人入 可畏阿鼻獄。雖近悪知識 悪心出仏血 及殺害父母 断諸聖人命 破壊和合僧 及断諸善根 以繋念正法 能解脱彼処。若復有余人 誹謗甚深法 彼人無量劫 不可得解脱。若人令衆生 覚信如是法 彼是我父母 亦是善知識 彼人是智者。以如来滅後 廻邪見顛倒 令入正道故 三宝清浄信 菩提功徳業〔愚かにして正法を信ぜず、邪見及び・慢なれば過去の謗法の障なり。不了義に執著し、供養恭敬に著し唯邪法を見て善知識を遠離し、謗法の者、小乗の法に楽著する、是の如き等の衆生に親近し、大乗を信ぜざる故に諸仏の法を謗ず。智者は怨家・邪火毒・因陀羅・霹靂・刀杖・諸の悪獣・虎・狼・師子等を畏るべからず。彼は但能く命を断じて、人をして畏るべき阿鼻獄に入らしむることあたはず。畏るべきは深法を謗ずると及び謗法の知識なり。決定して人をして畏るべき阿鼻獄に入らしむ。悪知識に近づきて悪心にして仏の血を出だし及び父母を殺害し、諸の聖人の命を断じ和合僧を破壊し、及び諸の善根を断ずると雖も、念を正法に繋くるを以て、能く彼の処を解脱せん。若し復余人有りて甚深の法を誹謗せば、彼の人無量劫にも解脱を得べからず。若し人衆生をして是の如き法を覚信せしめば、彼は是れ我が父母、亦是れ善知識、彼の人は是れ智者なり。如来の滅後に邪見顛倒を廻らして正道に入らしむるを以ての故に、三宝清浄の信、菩提功徳の業なり〕 龍樹菩薩の菩提資糧論に云く ̄説五無間業 乃至 若於未解深法而起執著 ○彼前五無間等罪聚比之百分不及〔五無間の業を説きたまふ。乃至、若し未解の深法に於て而も執著を起せば ○彼の前の五無間等の罪を聚めて之に比するに百分にしても及ばず〕云云。  夫れ、賢人は案(安)きに居て危きを欲ひ 寧(佞)人は危きに居て案(安)を欲ふ。大火は小水を畏怖し、大樹は小鳥に値ひて枝を折らる。智人は恐怖すべし、大乗を謗ずる故に。天親菩薩は舌を切んと云ひ 馬鳴菩薩は頭を刎んと願ひ 吉蔵大師は身を肉橋と為し 玄奘三蔵は此れを霊地に占ひ 不空三蔵は疑を天竺に決し 伝教大師は此れを異域に求む。皆上に挙ぐる所は経論を守護する故歟。今日本国八宗竝びに浄土・禅宗等の四衆、上主上上皇より下臣下万民に至るまで、皆一人も無く、弘法・慈覚・智証之三大師の末孫、檀越也。円仁慈覚大師云く 華厳・法華を大日経に望むれば戯論となす。空海弘法大師云く ̄望後作戯論〔後に望めば戯論と作す〕等云云。此の三大師の意は法華経は已今当之諸経之中の第一なり。然りと雖も大日経に相対すれば戯論の法也等云云。此の義、心有らん人、信を取るべきや不や。今日本国の諸人、悪象・悪馬・悪牛・悪狗・悪蛇・悪刺・懸岸・険崖・暴水・悪人・悪国・悪城・悪舎・悪妻・悪子・悪所従等よりも、此れ等に超過し恐怖すべきことは、持戒邪見の高僧等也。  問て云く 上に挙ぐる所の三大師を謗法と疑ふか。叡山第二円澄寂光大師・別当光定大師・安慧大楽大師・慧亮和尚・安然和尚・浄観僧都・慧心先徳此れ等の数百人、弘法之御弟子実慧・真済・真雅等の数百人、竝びに八宗十宗等の大師先徳、日と日と月と月と星と星と竝び出だしたるが如く、既に四百余年を経歴す。此れ等の人々一人として此の義を疑はず。汝何なる智を以て之を難ずるや云云。 此れ等の意を以て之を案ずるに、我が門家は夜は眠りを断ち昼は暇を止めて之を案ぜよ。一生空しく過ごして万歳悔ゆること勿れ。恐恐謹言。 八月二十三日 日 蓮 花押 富木殿 鵞目一結給候ひ了んぬ。 志有らん諸人は一処に聚集して御聴聞有るべきか。