上野殿御返事
執筆年:文永十一
真筆あり
鵞目十連・かわのり二帖・しやうかう(薑)二十束給候ひ了んぬ。かまくらにてかりそめの御事とこそをもひまいらせ候ひしに、をもひわすれさせ給はざりける事、申すばかりなし。こうへのどの(故上野殿)だにもをはせしかば、つねに申しうけ給はりなんと、なげきをもひ候ひつるに、をんかたみに御み(身)をわか(若)くしてとどめをかれけるか。すがたのたがわせ給はぬに、御心さえにられける事いうばかりなし。法華経にて仏にならせ給ひて候とうけ給はりて、御はかにまいりて候ひしなり。又この御心ざし申すばかりなし。今年のけかち(飢渇)に、はじめたる山中に、木のもとに、このはうつしきたるやうなるすみか、をもひやらせ給へ。このほどよみ候御経の一分をことの(故殿)廻向しまいらせ候。あわれ人はよき子はもつべかりけるものかなと、なみだかきあえずこそ候へ。妙荘厳王は二子にびちびかれる。かの王は悪人なり。こうえのどのは善人なり。かれにはにるべくもなし。南無妙法蓮華経。南無妙法蓮華経。
七月二十六日 日 蓮 花押